Interview
#41

心地よさを自分の手で生み出す
「リビセン」の理念と
古材でくらしをDIYする喜び

東野 華南子さんKANAKO AZUNO

株式会社 ReBuilding Center JAPAN 取締役

1986年生まれ、埼玉県出身。新聞記者だった父の転勤の影響で、幼少期から、上海、ロンドンなど海外での生活を経験。中央大学文学部卒業後、カフェ店長、ゲストハウスでの勤務を経て、2014年より夫でデザイナーの東野唯史さんと空間デザインユニット「medicala(メヂカラ)」を立ち上げる。アメリカ・ポートランドでDIYの聖地として知られる古材ショップ『ReBuilding Center』に出会い、名前とロゴの使用の許可を受け、2016年『ReBuilding Center JAPAN』をオープンさせる。
https://rebuildingcenter.jp/

JR上諏訪駅から10分ほど歩いたところにある「ReBuilding Center JAPAN(通称リビセン)」。ここは古い建物から"レスキュー"された古材と古道具を販売するリサイクルショップです。カフェも併設され、ワークショップやアート展示なども行なっています。「REBUILD NEW CULTURE」を掲げ、資源の価値を問い直すリビセンは、まさに新しいカルチャーが生まれる場所。その挑戦の立役者の一人、東野華南子さんに、自らの手で紡ぐくらしの楽しみについて伺いました。

「社会を良くすることに
命を使いたい」

「リビセン」の取締役である東野華南子さんですが、「私はぜったいに古材に携わりたい!とか、ものづくり最高!っていうのとはちょっと違って」と教えてくれました。大学は文学部卒。空間、建築の領域でデザインの仕事をしてきた夫の唯史さんと事業を立ち上げるまで、建築やDIY、リノベーションなどには全く関わってこなかったそう。

「何がなんでもこれがやりたい、っていう目標が、昔も今もないんです。ただ、父が新聞記者だった影響もあって、なんとなく社会を良くすることに命を使いたい、とは思っていました。そんな大それたことはできないだろうと思ったけど、目の前の人に『今日はいい日だったな』と思ってもらえるくらいのことだったらできるかも、と、カフェで働き始めました」

しかし、ゴミを大量に捨てなければならないビジネスモデルにはずっと疑問を抱いていました。その後東日本大震災も重なり、社会のために自分にできることが少ないともどかしさに駆られていた時に、唯史さんと出会います。

「一人でできることには限界がありますが、夫を含めチームと一緒なら、何か社会のためになることができると思いました。今もそこに自分の身を投じています」

東野 華南子さんイメージ

ポートランドでの
出会い

そして、店舗のデザイン、施工、運営アドバイスを行う空間デザインユニット「medicala」を立ち上げた二人。クライアントから依頼があった土地に赴き、そこで3ヶ月間住みながらデザイン、解体、施工を行い、竣工したら次の土地に行くというくらしを2年ほど送ります。

「素敵なお店を一軒作れば、そのお店を愛する人が増え、街を愛する増え、続けていたら日本全体が良くなるんじゃないか。単純かもしれないけど、そんな可能性を信じていました。でも、1年に4軒しか作れないのは効率が悪いし、限界があると思っていて。そんなタイミングでポートランドに行って、『ReBuilding Center』に出会いました」
古材で、自分のくらしを自分の手で豊かに紡いでいくDIYの価値観に感銘を受けた二人。自分達は古材を集める方法も、扱う方法も知っていて、それを発信するスキルもある。もし日本にこんなお店があったら──という思いから、本国のお店にこんな連絡をしました。

「日本は今、空き家問題、人口減少などいろんな問題を抱えていて、『ReBuilding Center』があれば解決の一助になると思う、名前とロゴを貸して......と、けっこう長いメールを送ったんですよ。そしたら、『いいよ』って2行くらいの返事が返ってきて(笑)。だからお店の物件くらい見つけないと筋が通らないと思って、物件探しに着手しました」

東野 華南子さんイメージ
東野 華南子さんイメージ

運命的な繋がりで
とんとん拍子のオープン

ずっと店舗を作る仕事をしていたため、良い物件を見つけるのがまずは最初の難関だということはわかっていました。

「もともと、この時手がけていた案件の対応で下諏訪に移住はしていたんです。知人に聞いてみたら、すぐに現在の『リビセン』の物件のオーナーを紹介してくれて。さらに『じゃあ会社立ち上げるよね? 会計士紹介するよ』と会計士さんを紹介され、そこでは『お金必要だよね? 銀行紹介するね』と銀行を紹介され、なんと一日のうちに全部終わっちゃったんです(笑)。最初に現在の物件に足を運んでから、一年くらいでオープンできました」
まるで大きな渦の中にいる感じでした、と振り返る華南子さん。現在、リビセンは古材や古道具の引き取り、古材を使用した空間デザイン、古材の販売とその価値を多くの人に発信する空間を提供する「Shop & Cafe」の運営、という3つの部門で成り立っています。

「リビセンができたあと、新しいカフェなどのお店が5店舗ほど周りに増えました。今年の冬には古本屋さんも一軒できるんですよ。リビセンがあることが、街の活性化の一つのきっかけになっていたら嬉しいな、と思います」

東野 華南子さんイメージ

心地よさは、細かく手入れを
しながら作る

実際にくらしてみると、上諏訪という土地の魅力はどんなところにあるのでしょうか?

「ずっと晴れてること!(笑)。晴天率が高いんです。だからすごく気持ちがいい。また、自然豊かでありながら、車で5分走ったらコンビニが、10分走ったらスターバックスがあって仕事ができる、といったコンパクトな利便性も魅力です」

歩いて行ける範囲に好きなお店が増えてきたことで、くらしの楽しさも増しているそう。仕事に、育児にと忙しい毎日を送っている華南子さんは、近所のお花屋さんに買い物に行くことが大きなリフレッシュになっているとか。

「子どもがいるとどうしても部屋が散らかりますが、お花を飾りたいと思うと、片付けよう、という気持ちになります。仕事はやろうと思えば尽きないし、仕事と子育ての両立はまだ模索中です。そんな中でも、例えば今日の午前中は家のことを徹底的にやる、とメリハリをつけ、細かくくらしの手入れをしながら心地よい空間を作る、といったことが最近は楽しくなってきました」

東野 華南子さんイメージ

くらしのDIYを
楽しんでいきたい

今、華南子さんがくらしの中で喜びを感じるのは、「生活動線が良くなる模様替え」がうまく行った瞬間だそう。

「タオルここにあるけど本当はこっちの方がいいかも、とか、この古道具をお風呂場に吊したら子どものおもちゃ入れにちょうどいいかも、とか......地味ですよね(笑)。でも、それがくらしのDIYじゃないかと思うんです」

日本でDIYというと、日曜大工のような意味で使われることが多い印象があります。

「なんとなく人ゴトになってしまっていることを、もう一度自分の方に手繰り寄せることがDIYだと思います。例えば、家の壁が、竹小舞土が合わさり、土、漆喰が塗られてできているように、全て因数分解できるし、背景には人の手があります。私は、自分の手でくらしをより良くできている、と思える感覚が好きなんだと思うんです」

リビセンが掲げている理念は、『REBUILD NEW CULTURE』。自分の手で自分のくらしを紡ぐことは、新しい文化を作ることにも繋がります。

「以前、〝レスキュー〟してきた建具の割れたガラスを溶かしてリサイクルし、作家さんにガラス作品を作っていただき個展を開催しました。資源を循環させるこうした取り組みは、今後も広げていきたい。温暖化やごみ問題などが社会課題である今の時代だからこそできるものづくりだと思うんです。私は、リビセンの理念を自分なりに解釈して楽しみたいし、スタッフのみんなにもそうでいてほしい、と願っています」

東野 華南子さんイメージ
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