Interview
#47

熱気球で世界に挑戦する夫婦
畑を耕し、空を飛ぶ
豊かなくらしの姿

藤田 雄大さん

熱気球パイロット
藤田 華菜子さん
PUKAPUKA 企画・広報・経理担当 YUDAI, KANAKO FUJITA

<藤田 雄大さん>1987年生まれ、栃木県出身。熱気球競技選手の父の影響で子どもの頃から熱気球に乗り、18歳で熱気球パイロットライセンスを取得。2014年の世界選手権で日本人初の優勝を成し遂げる。日本選手権は7度優勝、熱気球ホンダグランプリで12度優勝という記録を持つ日本を代表する熱気球パイロット。コマーシャルパイロットとしても活躍するほか、PUKAPUKAのプロジェクトでは熱気球の普及のために尽力。世界選手権で再びの優勝を目指して奮闘中。
<藤田 華菜子さん>1990年生まれ、佐賀県出身。父がバルーンクラブに所属しており、子供の頃から佐賀バルーンフェスタに恒例行事として関わる。NECや戸上電気製作所で技術開発の仕事に携わり、2018年に結婚、2019年にPUKAPUKAのプロジェクトをスタートさせる。夫・雄大さんの世界選手権優勝を目指すチームを運営するとともに、熱気球の魅力を伝えるためのセミナーや、渡良瀬遊水地でのフリーフライト、イベント出演などさまざまな企画を立案している。
https://www.pukawaku.com/

大空へと色とりどりの熱気球が一斉に飛び立つ圧巻の風景。世界ではトルコのカッパドキアが有名ですが、日本でも各地でバルーンフェスタが開催されています。その魅力を広めるべく、「PUKAPUKA」プロジェクトを運営するのは日本を代表する熱気球パイロット・藤田雄大さんと、妻の華菜子さん。現在、栃木県の農地付き一軒家で野菜を育てながら、渡良瀬遊水地で練習に励む二人。飛ぶこと、畑仕事が不思議な調和を生み出し、唯一無二のくらしになっているのだとか?

風に〝乗る〟ことができる
不思議な乗り物

父が著名な熱気球競技選手だった藤田雄大さんは幼い頃から空に慣れ親しんできました。

「車に乗ってどこか行くか、という感覚で父の気球に乗ってきました。小さい頃は興味がなかったので、中で寝てたりしてましたけど(笑)」

熱気球競技では、制限時間内でどれほど正確にフライトができるかを競います。風を〝切って〟操縦する他のスカイスポーツと違い、熱気球は風に〝乗る〟もの。風と共に動くので、バスケットの中は常に静かな無風状態、という不思議な体験を味わえます。
「風を読み、ゴール地点へと向かう競技です。風の流れる方向にしか進めないので、ある意味不自由ですが、空と一体になると不意に自由を感じられる瞬間がやってくる。それがパイロットとして一番ぞくぞくします」

競技にはたくさんの駆け引きもあります。

「他の気球よりも先に行けば、風が変わる前に目的地点に到達できますが、後から行けば、先行の気球が乗る風の流れを見てルートを修正できる。ここが駆け引きです。僕の場合は、楽しくて、とにかく飛んでいきたい、という気持ちが強いから、先に行っちゃうことが多いんですけどね。これは親父ゆずりかもしれません」

藤田雄大 華菜子さんイメージ

戦いは空だけでなく
地上でも

雄大さんのように直感を大切にする選手もいれば、さまざまなデータや気象の知識を駆使して飛ぶ人も。また、気球が離陸すると、地上のチームが目的地に先回りして、着地のための風の状態をパイロットに伝えるというミッションがあるため、実は地上でも戦いが繰り広げられます。現在、雄大さんのチームでナビゲーションを務めているのが、妻の華菜子さんです。

「パイロットの進路を助けるために、なるべく早く目的地に着かなければなりません。ハイエースを運転するドライバーさんに私がナビゲーションします。今のドライバーさんはランドクルーザー好きの方で、運転技術がすごいんです。狭い道に入っていくことも多い中、ぶつけずスッと入っていっちゃう。他にも風を見てくれるメンバーや、カメラマンもいて、みんながプロフェッショナルとして力を発揮してくれる、素晴らしいチームです」

熱気球競技は数日間かけて開催される大会もあり、フライトの時間以外は共同生活を送ることになるため、パイロットの技術はもちろん、チームの雰囲気作りも重要なんだそう。

「雄大がマイペースでかなりふわふわしてるので(笑)、それがチームに良い影響を与えているのかもしれません」

藤田雄大 華菜子さんイメージ
藤田雄大 華菜子さんイメージ

気球の魅力を発信、
少しずつ広がる輪

雄大さんと華菜子さんがPUKAPUKAを立ち上げたのは2019年。雄大さんが再び世界選手権で優勝を目指す、という軸と同時に、渡良瀬遊水地でお客様を乗せて飛ぶフライトや、セミナーなど熱気球の普及活動も展開しています。

一時、カンボジアで観光フライトの仕事をしていましたが、コロナ禍でやむをえず帰国。国内で何も活動ができない状況が半年以上続きました。そこで「くまモンの気球を作ろう」というアイディアを出したのが華菜子さんでした。

「当時私たちが持っていたのは小さな競技用の気球だけだったので、それよりも大きい、パイロットの他に大人が4、5人乗れるものを作ったんです。すると、気球はよく知らないけど、くまモンのファンだという方がSNSの投稿で興味を持ってくださったり、イベントに遊びにきてくれたりして。Zoomでオンラインセミナーも始めたので、少しずつですが、人の輪が広がっている実感があります」

雄大さん曰く、華菜子さんは「とにかくいろいろやってみよう、という邁進力がすごい」とか。

「僕は、結婚前は割と自分の競技だけに集中していて、小さいコミュニティの中で満足してたんですけど、華菜との出会いをきっかけに、人の輪がすごく広がったと感じます。気球って面白いんだね、と知ってもらえる時の喜びは大きいですね」

藤田雄大 華菜子さんイメージ

人間は土に触ることで
癒やされている

現在、二人は栃木県に2/3、佐賀県に1/3という割合で拠点を移しながら生活しています。栃木県の渡良瀬遊水地は一年中フライトができる貴重な場所であり、佐賀県はアジア最大級のバルーンフェスタが開催される場所です。

昨年から住んでいる栃木の家は、一階がフリースペースになっており、気球の仲間も頻繁に集まるそう。気球を収納できる倉庫があること、遊水池からのアクセス、農地付きという点に惹かれ、決めた物件でした。

華菜子さんは、「農薬などが気になるタイプだったので、自分で野菜を作るのは安心、安全、という点でうれしい」とのこと。
一方、雄大さんは土に触れることが大きな癒しになるのだとか。

「僕の場合は、植物がゆっくり、でも確実に大きくなっていくのを見るのが好きなんです。だから畑でも、収穫することより、純粋に育てている過程が楽しいので、仮に何も獲れなくても幸福度が高くて。人間には土に触ることで癒される何かがあるんだろうな、と感じますね。汗だくで耕運機をかける作業は大変ですが、心に大きな恩恵を受けていると思います。競技のためのメンタルコントロールにも、土いじりは欠かせない習慣です」

藤田雄大 華菜子さんイメージ

気球と畑で、意外な
コラボレーションが実現?

仕事とプライベートを区切らないという二人。フライトがある日は朝4時に出かけ、帰ってきて畑仕事をして……というくらしを送っています。

二人とも料理好きですが、最近は華菜子さんが事務的な仕事をする分、雄大さんが率先して料理を担当しているのだとか。自ら育てた野菜は、いっそう美味しく感じるそうです。華菜子さんは、育てた野菜を「いつかは販売したい」とも考えています。

「今年は一年目なので、土壌を作る段階ですけど、もっと経験を積んで美味しく作れるようになりたい。畑と気球をくらしの中で両立できるのが素敵だと思うんです。例えば、畑に興味がある人が気球を知ってくれるきっかけになるかもしれないし、逆に、気球に興味のある人が美味しい野菜を育てることに繋がるかもしれない。何か良いコラボができると良いなと思っています」

気球と畑を繋ぐ、今までにないプロジェクトが始動するかもしれません。そして雄大さんにはもちろん、競技者としての大きな目標があります。

「過去、世界選手権で1回勝った選手はたくさんいます。最多が2回で、3回目はいません。だから僕は4回、5回を目指したいですし、気球の人に『誰が一番強い?』と聞かれてすぐ僕の名前が出るような選手になりたい。熱気球競技を活性化し、牽引できるようなチームを作っていきたいです。それからPUKAPUKAの事業に関しては、妻が引っ張ってくれるので今後も全力で乗っかっていきたいですね(笑)」 

藤田雄大 華菜子さんイメージ
藤田雄大 華菜子さんイメージ
YUDAI, KANAKO FUJITA Everything Has A Story