Interview
#17

〝図書館を作った本好きの中学生〟
武器はひらめきと行動力
人々を笑顔にしながら
夢を追いかけ続ける人生を送りたい

熊谷 沙羅さんSARA KUMAGAI

中学3年生 Book Swap Japan代表
川の図書館館長

2006年東京都生まれ。両親はベネズエラ出身。中学1年生の時に発案した「Book Swap Chofu 川の図書館」を2020年4月にスタート。全国4ヶ所に広がった「Book Swap Japan」の代表、川の図書館館長。地域のコミュニティ形成の分野で調布市への提言を多数行う。商業施設や商店街の活性化のために「Book Swap Japan」の出張企画も実施。より多くの自治体にこの活動を広げていきたいというビジョンもすえながら、2022年4月からの高校進学を機に、新しいチャレンジも模索中。
https://bookswapjapan.org/

「こんにちは」「久しぶりですね」──元気のいいあいさつが青空に響き渡ります。声の主は、多摩川沿いで毎週日曜日に開催される「Book Swap Chofu 川の図書館」の館長、熊谷沙羅さん。会いに行った2022年1月、彼女は中学3年生で、ちょうど高校受験が終わったばかりというタイミング。Book Swap活動を構想し始めたのはなんと中学1年生の時。バイタリティあふれる若きベンチャラーを突き動かす原動力は、一体なんなのでしょうか。

本はディズニーランド
みたいなもの

「私、すごいおしゃべりなんですよ。小さい時から全く人見知りしませんでした。人と話すのが好きな性格なんです」

そう自己分析する通り、底抜けに明るい性格と類いまれな行動力で、熊谷さんは「Book Swap Japan」を立ち上げました。土日は図書館に入り浸っていたというほど、大の本好きです。

「本ってディズニーランドみたいなもの。現実じゃない、別の世界に没頭できる。コロナ禍とか災害とか、大変なことが起きたときにも心の拠り所になる、今この時代に本当に必要なものだと思ってます」

コロナ禍で図書館が休館になり困った熊谷さんは、昔、アメリカ旅行時に公園で見かけたリトル・フリー・ライブラリー(木箱に本が入っていて、持ち出し自由の小さな図書館)を思い出します。これがやりたい、と熊谷さんは企画書を作って調布市の「緑と公園課」に持ち込みましたが、残念ながら、日本の法律上公園に設置することはできないと返答が。

それを受けて、古本を集めて多摩川沿いに自分達の図書館を開く「Book Swap Chofu 川の図書館」のアイディアに発展。本の持ち出しは自由で返却不要、持ち込み・寄付も受け付けています。回を重ねるにつれて蔵書は1500冊にまで増え、この日を楽しみにやってくる常連さんもできるほどに。

「コロナ禍の前は、隣に住んでいる人たちのこともよく知りませんでした。でも、今は地域の人たちの顔がよくわかる。あいさつし合える人がいるというのは本当に素晴らしいこと。自分にとって、人生を変える大きな経験になりました」

熊谷 沙羅さんイメージ
熊谷 沙羅さんイメージ

行政・企業とも連携して
アイディアを発信

川の図書館には小さな子どもからお年寄りまで、幅広い年齢の人たちが集まります。アコーディオンの演奏をする人の姿も。コロナ禍でコンサートが無くなってしまい、「家で練習するのもなんだからここで練習してもいい?」と声を掛けられたのが始まりで、今やこの川の図書館の名物になっています。

この盛況ぶりに、逆に調布市から「アイディアをもらえないか」と熊谷さんに声が掛かるようになりました。

「市長さんと懇談会をしたり、図書や公園など公共の場がどうあるべきか、などの会議に呼ばれたりします。他にも、弟の大輔は人々が交流できる無料カフェを作る取り組みをしています。市役所に相談して調布市内の空き家を使えないか検討もしたのですが、まずは空き家のオーナーさんの理解を得やすくするために、自宅の1階を週に2回、無料カフェとして解放しています」

また、大手不動産会社からも声がかかり、大型商業施設でBook Swapのイベントも開催。3月にも別の商業施設で計画中だといいます。イベントの装飾も、スタッフの配置もタイムテーブルも、全てを自分一人で手掛けたという熊谷さん。「Excelを覚えました!」と、普通の中学生だとなかなかできない濃厚な経験を得られたそう。

熊谷 沙羅さんイメージ
熊谷 沙羅さんイメージ
熊谷 沙羅さんイメージ

両親に学んだ
社会活動の大切さ

アクティブな熊谷さんの活動を支えるのは、家族。

「みんな個性的で、アクティブで、ゴロゴロしている週末なんて記憶にないくらい。サポートしてくれる親には、何よりも感謝です。弟の大輔は私と違って、冷静で慎重なタイプ。私が『良いこと思いついた!やろう!』といい出すと大輔が『待って沙羅、こういうところちゃんと考えた?』って止めてくれます。良いコンビだと思うんですよね(笑)」

これまで家族でいろんな場所に旅行に出かけ、インドを一周した経験もあるとか。さらに、昔から一家総出でボランティアや社会活動に精を出してきたそうです。毎年元旦は表参道の教会で、お雑煮やおせちを作り、ホームレスの人たちのための炊き出しに参加するのが恒例行事。また、「令和2年7月豪雨」では、お母さんとともに被災地である熊本県人吉市で、災害ボランティアとして家屋の泥出しなどの活動にも従事し、本も100冊届けました。

「使命感がある、っていうよりかは、ボランティアに携わることは私たち家族にとって当たり前のこと。相手がお金持ちでも貧しくても、どういう人であってもちゃんと関わって生きて、と親に教えられて育ちました。親がいろんな体験を授けてくれて、今の自分があるんだなって思います」

熊谷 沙羅さんイメージ
熊谷 沙羅さんイメージ

その年齢でしか
できないことがしたい

そんなふうに、これまで家族から大きな影響を受けてきたと語る熊谷さんですが、高校生になったらより自立し、自分ならではの視座を持ちたいという目標があります。

「中学生で川の図書館を始めたからこそ反響があった側面もあると思います。自分の年齢を大切にする、っていうのは意識しているんです。これから大人になって、どんな年齢になっても、その年齢を自分の好きなように楽しんでいたいと思います。高校生になったら、『THE・高校生』みたいな青春が送りたい」

ひとまず海外の大学に進学することを目標に、国際バカロレア資格の取得に励むことは決めているそうです。

「色々と自分を掘り下げて、何ができるのかを見定める時期でもあると思います。やりたいことをしたいという思いと、それに対する責任にどう折り合いをつけるか、ということも学ぶべきポイントかな」

将来の目標はまだ具体的には決まっていませんが、「美術史にも、ジャーナリズムにも興味があって、歌ったりすることも好きで…‥」と、夢は大きく膨らんでいます。

熊谷 沙羅さんイメージ
熊谷 沙羅さんイメージ

動いて動いて、
夢を追い続けたい

常に前を見続ける、その原動力はどこにあるのでしょうか?

「人と話すことがすごくモチベーションになっていると思います。例えば、おはようございます、っていう何気ないあいさつで人が笑顔になる、その瞬間ってすごく神秘的だなと思うんです。自分の一言で誰かの一日が少しだけ明るくなって、『いい日だな』と振り返ってもらえたら嬉しいし、私もハッピーです」

川の図書館のような明るいコミュニティが生まれた背景には、たくさんの出会いや会話を楽しもうとする熊谷さんの思いがありました。

「私、ちゃんと目標を立てるタイプではなくて。やりたい、と思ったら即行動です。大変なことがあっても、『なんとかなるよ』って思ってます。動いて動いて、動き続けていれば大体なんとかなる。自分はそうやって、夢を追いかけ続ける人生を送りたいなって」
毎日楽しいですよ、と教えてくれた熊谷さん。明るい笑顔はその日も、多くの人のくらしを照らしていました。

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