Interview
#19

〝料理を愛する陶芸家〟
プランより、フィーリングを大切に
静かなくらしの中で育む創作の時間
一生涯、焼き物と向き合っていきたい

後藤 レジーナさんREGINA GOTO

陶芸家

ブラジル、サンパウロで日系の両親の元に生まれ育つ。偶然通い始めた日本の陶芸教室がきっかけで焼き物の世界に関心を抱き来日。1992年、親戚の紹介で栃木県の益子焼窯元に弟子入りし、2年間の修行を経て1994年、夫である後藤義国さんと独立。1997年に現在の栃木県芳賀郡茂木町に工房を移転。シャープな雰囲気を携えるブロンズのような黒釉のシリーズや、丸い花びらのようなフォルムの可憐な白釉シリーズが人気。全国のギャラリーで夫との二人展を開催。
https://www.instagram.com/yoshikuni_goto/

里山や田畑が広がる、のどかな栃木県茂木町。県道からそれた脇道を車で5分ほど進むと、陶芸家・後藤レジーナさんと後藤義国さん夫婦の住居兼工房があります。自然豊かな約900坪の敷地に建つ、古民家を改装した住まいの庭先には、猪などの動物がやってくるのも珍しくないのだとか。ブラジル出身のレジーナさんは、故郷から遥か遠いこの地で営む毎日のくらしの中でどのように作品を生み出しているのでしょうか? 陶芸への愛、そして、そこにかける思いについて伺いました。

ブラジルで育った
料理好きの女の子

宮崎県出身の祖父母とともに、当時7歳でブラジルに渡ったレジーナさんのお父さん。そこで同じく日系の女性と結婚して、レジーナさんは6人きょうだいの4番目として生まれ、ブラジルの大都市・サンパウロで育ちました。

「子どもの頃はすごくおてんばでしたよ。すぐ上の兄2人を追いかけて一緒に走ったり、木に登ったり。いつも怪我だらけでした」

両親はおもちゃの販売店を経営しており、事業にかかりきりで忙しくしていたそうですが、カトリック教徒は日曜日に家族で食事をするのが習慣。そこで、母の料理を手伝いながら、レジーナさんは料理に大きな関心を寄せるようになります。

「我が家では、ブラジル料理と日本料理が同じテーブルに並んでいました。私が大好きだったのは『おいなりさん』。うちの母は割と決まったメニューしか作らない人でしたけど、友達の家でご馳走になったり、レストランで食事をする時にいろんな料理に巡り会えました!」

サンパウロは移民の街。ヨーロッパ、アジア、中東などさまざまなカルチャーが入り混じる土地だったからこそ、各国の料理を楽しむことができたそうです。

後藤 レジーナさんイメージ
後藤 レジーナさんイメージ

「やりたい!」の
気持ちだけで日本に

そして、偶然サンパウロで日本人が主宰する陶芸教室に出会います。レジーナさんは、料理の世界と分かちがたく結びついた「器」の世界にすっかり魅了されてしまいました。

「それまでもファッションやインテリアなどを学んでいたんですが、どれも長続きしなかった。もともと料理が好きだったので、焼き物に対して何かピンときたんです」

「やりたい!」という気持ちが昂る中で、サンパウロに遊びにきた日本の親戚から「日本で陶芸家の弟子になったらもっと勉強できるよ」とアドバイスを受けます。
「本当に何も考えずに日本に来ました。親戚に益子の窯元を紹介してもらって弟子入りしたんですが、都会育ちだったので、とにかく益子の田舎の風景にびっくりして(笑)」

今では都会よりも自然の中の方が落ち着くようになったそうですが、最初はカエルも虫も怖くて大変だったとか。いきなり飛び込んだ異文化に戸惑いながらも、「勉強したい」という強い想いに支えられて修行生活を送ります。

レジーナさんだけでなく、全ての陶芸家にとって修行時の最大の関門になるとされるのが「菊もみ」という作業。粘土をそのまま使うと焼いた時に中で空気が膨らんで割れてしまうため、揉んで空気を抜く必要があります。重量感のある粘土に力を入れて捻り、捏ねていくのは体全身を使った重労働です。

「これができるようになるのに1年以上かかりました。その間に腱鞘炎になってしまって、ろくろを回す修行に移れないまま独立しました」

後藤 レジーナさんイメージ
後藤 レジーナさんイメージ

大事にしているのは
フィーリング

現在のレジーナさんの作品でもろくろは使わず、独自のやり方で平たく伸ばした粘土を形成していきます。この作風に至るまでにも多くの時間を費やし、葛藤も絶えませんでした。

「子育てで10年以上、陶芸からブランクがありました。子どもの送り迎えをして、家事をして、『2時間あいたからやろう』と片手間でできる仕事じゃなくて」

ひらめきで何か作品ができても、それが良いのか、悪いのかの判断がなかなかつかない。しかも、一つの作品だけでなく自分のオリジナリティを作風としてシリーズ化し、お客様に認知してもらうにも時間がかかります。

10年は大きかった。自分だけ別の世界に行って帰ってきたみたいでした。アイディアもついてこない、いくら作っても上手くいかない、そんな日々の繰り返しで」

レジーナさんは試行錯誤を重ね、納得いかなければ素早く見切りをつけて、自分のスタイルを追い求めていきました。「旦那とは正反対ですね」と、ろくろを使い、ずっと白い鎬(しのぎ)のシリーズを作り続けている夫の義国さんを指して笑顔。

「私はもう、フィーリングでやっちゃうタイプ。なぜかプランニングするといつも失敗しちゃう」

後藤 レジーナさんイメージ
後藤 レジーナさんイメージ

「器」じゃなくて
「インテリア」

そんな思い切りの良さが現れるのが、釉薬の黒の質感が存在感を放つシリーズです。レジーナさんの子ども時代、ブラジルには黒い器がなく、「あったら絶対にかっこいい」と、日本の楽茶碗などにも影響されて作り始めたもの。しかし最近は白い器のシリーズも人気で、盛り付けた時、「白はシンプルに料理の美しさを引き立ててくれるのが魅力」だといいます。

「やっぱり、自分の器を自分が作った料理のために使うのは楽しいですね。うちでは私の料理は私の器、旦那の料理は旦那の器で出てきます(笑)」

陶芸家の仕事は、器を作るところまで。購入したお客様がそれを使うと、今度は家庭の中で別の器と組み合わせられ、新しい世界が生まれていきます。

「お客さんから『この器を買ってよかった』と言われるとすごく嬉しい。誰しも、自分にそれぞれ合う器があると思います。流行は関係なく、自分の目で見て、気に入ったものを買えばいい」

料理が盛り付けられたりしてくらしの中で息づくと、大きく表情が変わるのが器。思う存分コーディネートを楽しみ、遊んでほしいとレジーナさんは語ります。

「私は『器』と考えないで、『インテリア』って捉えてるの。食器棚にしまうなんて勿体無い。出しておけば良いじゃない? レモンやトマトを載せて飾ったりして。食事の時だけ食器として使えばいい。そんなふうに、自由に考えてほしい」

後藤 レジーナさんイメージ
後藤 レジーナさんイメージ
後藤 レジーナさんイメージ

自然に、赴くままに、
創作し続けたい

今も変わらず料理が大好きだというレジーナさん。子どもが巣立ち、自由になる時間が出来たことで、最近はおしんこや柴漬け、アンチョビなどを一から作り、手間と時間のかかる料理を楽しんでいるといいます。

陶芸家だけど、焼き物の仕事をするために生活を組み立てるのではなく、くらしの中に焼き物作りがある。仕事に煮詰まったら少し山の中を散歩して、道の駅に買い物に行って……そんなゆったりとした生活を今、レジーナさんは満喫しているそう。静かな冬の工房では、時おり薪ストーブの中で薪が爆ぜる〝パチッ〟、という音が温かみを醸し出しています。

「これからも多分、プランニングはしません(笑)。自然に、赴くままに。そっちのほうが私に向いているのね。新しいひらめきがあった時はワクワクしますよ。昔は色々チャレンジして回り道したけど、焼き物は自分にとって一生のもの。ずっと、死ぬまでやりたいと思っています」

後藤 レジーナさんイメージ