Interview
#20

デザインの力で寄り添いたい
くらしを快適にするプロダクトは
人を見つめるまなざしから

三宅 一成さんKAZUSHIGE MIYAKE

デザイナー

1973年、兵庫県生まれ。多摩美術大学プロダクトデザイン科卒業後、自動車メーカーに就職。その後イギリスに渡り、現地のデザイン事務所で経験を積んだ後、1999年に帰国。デザイン事務所を経て2005年に「miyake design」を設立。グッドデザイン賞審査委員、シンガポールグッドデザイン賞審査委員、 iFデザイン賞審査委員。様々な家電製品など、日常の中で使うプロダクトを中心に、生活雑貨や家具、伝統工芸品など幅広いアイテムを手掛ける。
https://www.kazushigemiyake.com/

デザインするのは、手に触れられるもの、全て──そう謳っているのが、デザイン事務所「miyake design」です。2005年にこの事務所を立ち上げた三宅一成さんは、人々の生活や、社会がデザインで良くなっていくのかを常に考えて仕事をしていると教えてくれました。くらしに密接に結びつき、その営みを助けてくれる存在とも言えるデザイン。数々のくらしの中で生きるプロダクトを手がけてきたデザイナーの仕事観を紐解きます。

車に憧れた
子ども時代

車が大好きな子どもだったという三宅さん。ミニカーの収集に励み、プラモデル作りを楽しんでいたそう。3歳ごろに描いた車の絵は、今でも親が大切に取っておいてくれているとか。

「純粋に、好き、という気持ちから始まり、漠然と車に携わる仕事がしたいと思っていました。そしたら、当時、話題を呼んでいたインスタントコーヒーのCMシリーズにレーシングカーデザイナーの由良拓也さんが出演されているのを見て。車とデザインというキーワードが自分の中で結びつき、なんだか格好いい、と感じたんです」

そんな志を持って、多摩美術大学でプロダクトデザインを学び、大手自動車メーカーの関係会社でデザイナーとして働き始めます。
しかし、しばらく経つと車のデザインには多くの制約があることに気付き、それが今につながる新しいキャリアを開くきっかけになったそう。

「4つタイヤがあってエンジンが搭載されていてボディがあって、という大前提は、どうにもこうにも変えられないんですよね。自分の周囲では家電や家具をデザインしている人たちがいて、その人たちは素材も形も、すべてゼロから考えることができる。羨ましいな、と感じてしまったんです。今となっては、隣の芝が青く見えていたな、と思うのですが(笑)」

三宅 一成さんイメージ
三宅 一成さんイメージ

使う人の立場に立って
考える大切さ

その後、デザイナーとして英語を学ぶ必要性も感じ、イギリスに渡って語学学校に通いながら、現地のデザイン会社で経験を積みます。デザインの見識が広がったのに加え、共に学校で学んでいた海外の留学生のライフスタイルからも大きな影響を受けたそう。

「その時たまたま、クラスにブラジル人が多かったんです。時間やルールを気にしすぎないラテンのおおらかな感性には、衝撃を受けるとともに発見もありました。僕はその時、けっこう細かいことを気にする短気な若者だったんですけど、ああ、こんな感じでも意外と問題なくやっていけるものなのか、と」
自分の殻を破る良い経験になった、と振り返る三宅さん。細かいことを気にしすぎない、自分の考え方を過信しすぎないスタイルを学んだそうです。

「くらしっていうのは本当に人それぞれなので、デザイナーは必要とされているものはなにか、使う人の立場に立って考えなければならない。自分がああしたい、こうしたい、という考えじゃダメなんだと、イギリスで改めて実感しました」

日本に帰国してからは、デザイン事務所での経験を経て独立します。肩書きは「プロダクトデザイナー」と限定せず、「デザイナー」として、家電から家具、生活雑貨、自転車、伝統工芸品など、多岐にわたる分野を手がけています。

三宅 一成さんイメージ
三宅 一成さんイメージ

常に人が主役、
という考え方

miyake designのデザインとはこうあるべき、というメソッドはあるのでしょうか?

「いや、メソッドという形は持たないようにしています。発想が制限されてしまうことにもつながってしまう。これがあることで本当にくらしは豊かになるのか、社会は良くなっていくのか、という問いがあって、そこに応えるためには、方法はなんでも良いんです。ものがあって人がいるわけじゃない、人がいてものが存在しています」

常に人が主役、ということは強く意識しているそうです。これまで領域を横断しデザインに携わってきましたが、人のくらしや社会を良くしていきたいという視点を持つことは変わらず、ジャンルの間に大きな違いはないと考えています。

また、同時にデザイナーとして考慮するべき大きなポイントの一つが、クライアントを納得させること。社会からも、クライアントからも、冷静に求められているものを探りアウトプットの形を探る三宅さんの姿からは、職人的なイメージを感じます。

「確かに、僕の考え方は職人寄りかもしれないですね。経験を積んで、探究し続けて、どんどん腕を上げていく。もちろん、まだまだ精進の必要はありますが」

三宅 一成さんイメージ

自分の名前が知られるより
嬉しいこと

そんな三宅さんがデザイナーの仕事をしていて嬉しいと感じる瞬間は、自分が手がけたものだとは知らずに、その製品を使ってくれている人に出会ったとき。

「たとえば、撮影スタジオなどでハンガーラックが置かれているのを見かけて、『あ、これ僕がデザインしたんですよ』って伝えると『そうなんですか、知りませんでした!』と言っていただけることがあります。つまり、純粋にデザインが良い、と感じて使ってくれているわけです。それは、自分の名前で使ってもらえるよりもうれしい評価だなと思います」

三宅さんの仕事の背景には、大きなインパクトを残したい、イノベーションを起こしたいというモチベーションとはまた異なるものがありました。

「たとえば、炊飯器を変えたからって、人生が大きく変わったりするわけではないですよね。ただ、これがあったらちょっと便利だな、と思ってくれたら嬉しい。自分が携わっているデザインというのは、そういうものだと思います」

三宅 一成さんイメージ
三宅 一成さんイメージ
三宅 一成さんイメージ

これからもくらしに寄り添って
デザインしたい

形があるものはなんでもデザインできる、というのが三宅さんの考え方。この先、食品といった新しいジャンルにも関わってみたいと希望を教えてくれました。

「たとえばチョコレート。あれって金型製品と一緒だな、と。金型を作って流し込む。もちろん家電製品で言うエンジニアさんの役割としてパティシエさんがいるでしょうから、その連携はとった上ですが。味をどう感じてもらうか、というのはデザインにおける機能性の部分。だから、プロダクトデザインとして落とし込めるんじゃないかと思います」

そしてもう一つ、やってみたいのが車のデザイン。子どもの頃に抱いた車への愛はそのままに、今でも趣味として車を走らせたり、様々な車の情報に触れたりするのが好きとのこと。しばらく離れていた領域ですが、経験を積んだことで、以前とは違ったアプローチができるのではと考えています。

「高級車の美学はあっていいと思うんです。一方で、日常の足としてのモビリティは、言ってしまえばもっと『普通』でいいんじゃないか、と。人のくらしにもっと寄り添って、本当に役立つ車ってなんだろう、と改めて考えてみたいですよね。軽トラとか、デザインできたら楽しいと思うんです」

使う人の視点に立ってみれば、自ずと作るべきものが分かる──三宅さんのデザインと仕事観の根底には、くらしを見つめる真摯なまなざしがありました。

三宅 一成さんイメージ
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