Interview
#37

海の生きものに憧れ
夢を追い続けたショートレーナー
動物たちとくらす世界の魅力とは

細井 里紗さんRISA HOSOI

横浜・八景島シーパラダイス
ショートレーナー

1995年生まれ、埼玉県出身。子どもの頃からの動物好きで、水族館のトレーナーに憧れるように。2歳から水泳を始め、小学校5年生から高校3年生までアーティスティックスイミングで泳ぎの技術を追求。専門学校では海洋生物ネイチャー科で学び、2016年1月に横浜・八景島シーパラダイスに入社。「ふれあいラグーン」で4年勤務したのちに2020年からショートレーナーに。主に鯨類を担当し、イルカ、シロイルカとのショーに出演している。
http://www.seaparadise.co.jp/

細井里紗さんが水族館で働くことに憧れたのは、まだ幼稚園生だった時のこと。小さな頃から動物、特に水にくらす生きものが好きで、家族でよく関東近郊の水族館を巡っていたそうです。ショートレーナーになって、イルカたちと一緒に泳ぎたい──そんな願いを胸に抱き続けて大人になり、現在、横浜・八景島シーパラダイスで見事夢の舞台に立っています。夢を追い続けてきた細井さんの情熱、生きものたちへの愛情、そして、仕事への思いを伺いました。

海の生きものたちが
泳ぐ姿に憧れて

細井さんは子ども時代に水族館で水中ショーを見た時、トレーナーへの憧れと同時に、イルカをはじめとした鯨類の生きものそのものにも強い憧れを抱いたと言います。

「私は2歳から水泳を習っていて、泳ぐことが大好きでずっと水の中に居たいくらいでした。だから、あんなに速く、自由に泳げる海の生きものたちが羨ましかったんです。動物も好きだし、泳ぐのも好きだったので、トレーナーの仕事がやりたいとピンときて、それからずっと変わらない夢を追い続けて現在に至ります」
小学5年生頃から、アーティスティックスイミング(2018年、「シンクロナイズドスイミング」より名称変更)を本格的に始めたのも、すべては水族館でトレーナーになるためでした。

「そこで教えてくれたコーチもその後水族館のトレーナーになっていて、色々と相談に乗っていただきました。競泳だけではなくアーティスティックスイミングはやっておいた方がいい、とのことだったので、練習を重ねて全国大会にも出場して、高校3年生までずっと続けました」

細井 里紗さんイメージ
細井 里紗さんイメージ

長年の努力が実り
狭き門を突破

夢は色褪せることなく、細井さんは海洋生物について学べる専門学校に入学。そこには、海洋生物以外にも、動物園の飼育員や、トリマー、ネイチャーガイド、アクアリウム技術者など、生きものに関わるさまざまな仕事を目指す学生たちが集まっていました。

細井さんは海洋生物の飼育方法や、水族館の研修などでイルカのトレーニング方法を学び、「狭き門」と言われている横浜・八景島シーパラダイスの飼育員の採用試験に合格します。

「募集をしない年もありますし、必ずしも希望した部門に配属されるとは限りません。私はとにかくイルカと一緒に仕事がしたいということ、そのために自分はアーティスティックスイミングをやっていて泳ぎが得意であることを熱烈にアピールしました」

最初に配属されたのは、横浜・八景島シーパラダイス内にある「ふれあいラグーン」という施設。来場者がイルカ、シロイルカとふれあったり、一緒に泳いだりすることができます。4年間そこで働き、鯨類のほか、ペンギン、アシカ、セイウチなど多くの動物たちの飼育に携わりました。

そして2020年から念願のショートレーナーになり、現在は主に「アクアミュージアム」のショー担当として、シロイルカと一緒に泳ぐショーに出演しています。

細井 里紗さんイメージ
細井 里紗さんイメージ
細井 里紗さんイメージ

イルカと同じ目線に立ち
信頼関係を築く

実際に、イルカ、シロイルカたちと接してみて、細井さんは改めて彼らの姿に魅せられたと言います。

「やっぱり、泳いでいる姿が本当に綺麗です。それに頭が良くて。ごはんをあげる際も、新人がやると無視して泳いで行ってしまったり、人のことをよく見ています。トレーニングをしていても、何が求められているのかがわからないとふてくされたり、逆にこちらがたくさん褒めてあげると、調子が良くなってサインに反応してくれたり」

そんなイルカたちと信頼関係を築くためには、まずはトレーナー自身が技術を磨く必要があるそう。トレーニングでは「ターゲット」という棒を使い、それをイルカたちの目標物として種目をつくっていきます。ターゲットを正しく扱えないと動物とコミュニケーションをとることはできません。

「動物たちに失礼がないよう、まず私たちが十分に練習をする必要があります。餌のあげ方一つとっても、例えば数頭のイルカがいた場合、飼育員の投げ方が悪くて水に落ちてしまったら、それを取り合ってイルカたちの仲が悪くなってしまいます。だから、バケツを並べて、ペットボトルのキャップを投げて入れる練習をするんです。何よりもまず、動物たちと同じ目線に立って、信頼関係を築くことが大切ですね」

細井 里紗さんイメージ
細井 里紗さんイメージ

動物の習性を生かし、
魅力を知ってもらう

横浜・八景島シーパラダイスでの細井さんの一日は、動物にごはんをあげるところから、飼育舎の掃除、朝の健康チェックなど、ショー以外にも飼育員としてたくさんの仕事があり、分刻みでスケジュールが組まれています。

健康チェックでは、体調管理の一環として採血を行うことも。しかし、無理に行うとストレスになってしまうため、サインを出したら自主的に尾びれを差し出し、落ち着いて採血を受けられるようなトレーニングを食事と合わせて行なっているそう。動物たちが快適に過ごせるよう、その習性を正しく理解して行動する必要があります。
「ショーでも、自然界での動物たちの習性をベースに種目を構成しています。例えば、自然界でもイルカはジャンプをしますが、それは体の垢や寄生虫を落とす健康管理のため、シロイルカが泡を吐き出す『バブルリング』は砂の中の二枚貝を探すためと言われています。水族館でのショーはそんな動物たちの習性を取り入れているんです。お客さまに自然界で生きる動物たちのありのままの魅力を知ってもらうことも、私たちの大切な仕事です」

生きものたちとのコミュニケーションが可能なのは、その生態への深い知識と、培ってきた信頼関係があるから。細井さんの言葉からは、イルカ、シロイルカたちへの深い愛情が伝わってきます。

細井 里紗さんイメージ

動物がいる職場で
働き続けたい

水中ショーでシロイルカと共に泳ぐ細井さんの姿は、まさにエンターテイナー。音楽に合わせ、背に乗って水飛沫をあげながら泳いだり、向かい合って一緒に回転したり。幼い頃からの夢を叶えた彼女の全身から喜びが伝わってきます。

「これだけ水の中で仕事をしている、ということも影響しているのかもしれないですが、陸にいると、あぁ、重力を感じるなぁ、と思ってしまって(笑)。私は多分、前世は水の中の生きものだったんじゃないでしょうか。それくらい水の中が好きです」

プライベートでも動物園や水族館に赴き、「一日いても飽きない」と語るほど。それに加えて、ミュージカルやテーマパークなど、非日常を味わえる空間が大好きなのだとか。音楽や演出が参考になることもあるそうで、まさにショートレーナーになるために生まれてきたかのようです。

夢を実現させた細井さんですが、将来はどのような自分の姿を描いているのでしょうか?

「水中ショーのある水族館も少なくなってきていますし、やっぱりここに就職できて本当によかったです。もしかしたら異動はあるかもしれないですが、これからも変わらず、動物がいる職場がいいですね。たぶん、私は人間だけがいる職場だと働けないと思います(笑)」

細井 里紗さんイメージ
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RISA HOSOI Everything Has A Story