Interview
#22

デジタル化の中で
〝わくわく〟するメディアとは?
発信者と読者をつなぐ
編集者の挑戦

井上 貴彦さんTAKAHIKO INOUE

Pen Online ディレクター
コンテクスト・ディレクター

1989年生まれ、東京都出身。慶應大学環境情報学部卒業後、フリーランスとして色々な企業やプロジェクトのウェブデザインやプログラミングに携わり、現代アートのギャラリーで働いた経験も。その後、雑誌『Forbes』のデジタル部門の立ち上げに参画して、組織づくりやマネタイズ、メディアのブランディングに尽力。現在は『Pen Online』のディレクターとして、編集企画や、広告制作など多岐にわたる業務を手掛けている。
https://www.pen-online.jp/

デジタル化の波が押し寄せ、大きな変革の只中にある雑誌の世界。「雑誌が生き残っていく道は一つだけではないと思う」と語ったのは現在、『Pen Online』でディレクターを務める井上貴彦さん。デジタルネイティブである彼は、意外にも「紙」の持つ力や新たな可能性について教えてくれました。井上さんが見据える雑誌の未来とは。そして、さまざまなクリエイションやライフスタイルの発信に情熱を傾ける中で感じる、自身のくらしの中の喜びとは。

デジタルネイティブが考える
雑誌の可能性

「幼い頃は、本も雑誌も読んでこなかった人間でしたし、デジタルネイティブだという自覚はだいぶあります。まさか、自分が雑誌業界で働くことになるなんて思ってもみませんでした」

そう語る井上さん。現在、雑誌『Pen』の公式サイト『Pen Online』のディレクターを務め、メディアをより成長させていくためにコンテンツの拡充と運用に尽力しています。

「ウェブ、紙、それぞれに特徴があります。ウェブは、ひとつひとつのコンテンツの企画やタイトル、サムネイル次第で全く違った層のユーザに読んでもらうことができます。よくも悪くも記事単体として完結している必要があり、タイトルやサムネイルで興味をもってもらって、はじめて本編に触れてもらうことができます。一方、紙である雑誌は本一冊をつかってひとつのテーマや特集をあらゆる切り口で触れられるので、読者に対してより偶然の出会いを演出できます」

全く雑誌メディアとは関係のないライフスタイルを送ってきたものの、たまたま就いた仕事の中で思いがけず紙の魅力にも気づいたそう。何と言っても、その手触り感。「もの」としてプレゼントできるのもいい、と教えてくれました。

「以前は雑誌で流行や最先端の情報をいち早く知ることができましたが、今は個人レベルでも魅力的な発信ができる時代。メディアの役割は変化していく必要があります。これから『Pen』の中では紙やウェブなど、チャンネルにとらわれずもっと横断的に、企画を展開していきたい」

井上 貴彦さんイメージ
井上 貴彦さんイメージ

メディアが、
クリエイション発展の場に

変化するメディアの役割について、井上さんは思いを巡らせています。意識しているのは、コンテンツの中に登場する人々を横に繋げていくこと。読者への情報発信だけを意識していては、新しい価値は提供できません。

「これまでPenでは多くのクリエイターの活動や多様なカルチャーを紹介してきました。今後は、別々の領域で生きる人々をどんどん引き合わせて対談を企画したり、メディアを通して新しい化学反応を起こすハブになりたい、という思いがあるんです」

また、『Pen Online』ではあらゆる領域の第一線で活躍している人たちが、オフィシャルコラムニストとして、日々の気づきや自身の作品についてのコラムを発信しています。そうした発信者たちに交流を促し、メディアという媒介を通じて新しいひらめきを生むきっかけ作りにも貢献したいそう。

まとまりを帯びた情報の集合体は、未来のクリエイターの発見や、ヒントになるような教育・インフルエンスの場にもなります。

「今までにない新しいものが生まれる瞬間に、読者にも立ち会ってもらいたい。これまでの雑誌と読者の関係には『教える立場』『教えてもらう立場』という前提があったと思うんです。今は、互いに影響を与え合って、クリエイションをますます発展させていく場づくりをすることが、メディアの役割なんじゃないか、と考えています」

コロナ禍の影響で、リアルで対面できる場が制限されている今。どのようにコミュニケーションを生むかという課題に関しては、ずっと試行錯誤を重ねています。

井上 貴彦さんイメージ
井上 貴彦さんイメージ

わからないものが好き、
という原動力

井上さんは大学を卒業後、すぐにフリーランスとしてウェブ関連の仕事を始め、社会人としては主にデジタル畑で経験を積んできました。初めて足を踏み入れた雑誌の世界である『Forbes』も、デジタル部門立ち上げという変革期が重ならなければ、ご縁がなかったかもしれない、と振り返ります。

「『Forbes』にはベンチャーらしい気風があって、おもしろいことができるという期待がありました。学生時代からずっと文化祭などのイベントを楽しんできた人間なので、わくわくする感覚はすごく大切にしていて。慶應のSFC(湘南藤沢キャンパス)を選んだのもそう、『Forbes』に惹かれたのもそうです」

大学を卒業してすぐにフリーランスになったのは、企業に就職するという道に、自分自身納得できなかったから。ウェブ関連のスキルはあったので、なんとかなるだろう、という楽観的な見込みもありました。

「アートへの漠然とした興味から現代アートギャラリーで働いていた時期もあり、そこでもたくさんの経験をさせていただきました。多分、わからないものが好きなのかもしれないですね。その時の自分が興味を持ったことを無視しない、ということを信条にしています」

井上 貴彦さんイメージ
井上 貴彦さんイメージ

大事なのは
自分を信じること

多くのクリエイターと接する中で、一つの道を見定められない自分の生き方に大きなコンプレックスを感じたことも。

「でも、今の自分をハッピーに生きるしかない、と思うようになりました。自分の琴線に触れたもの、人たちに、誠実に向き合っていくことを続けたいと」

多くの仕事に携わり、フリーランスとしても働いてきた井上さん。自分のやりたいことに正直に向き合い、柔軟なキャリアを築くために意識していることはあるのでしょうか。

「僕はこの生き方がすごく心地いいし、好きだし、楽しいけど、人それぞれですし、誰かにオススメできるかというと……(笑)。でも、本来生き方って、それぞれの人がとことんオリジナルであるべきだと思うんですよね。それを知っているから僕はこの仕事が好きなのかもしれません。いろんなものを見てほしい、紹介したい、という思いが湧いてきます」

変化の多いキャリアで大事にしてきたのは、自分を信じること。

「僕も不安を感じたり、落ち込む時は落ち込みます。でも、勇気を持てなかったとしてもとにかく一回は自分を信じてみる。そしたら、次はもっと信じられるようになって、できることが増える。その積み重ねだと思います」

井上 貴彦さんイメージ

仕事でもくらしでも
わくわくを大切に

自分の感覚に正直に生きることは、体調管理への思いにも表れています。定期的にクロスフィットやヨガに親しみ、体が心地良いと感じる状態を追求しているのだとか。
「体づくりとしてもそうですし、メンタル面での変化を感じられるのも楽しいですね」

他にも、現在、井上さんが楽しみにしているのが、家の購入計画。すでに建築家も決めており、新築ではなく中古物件をフルリノベーションする予定だそう。

「今は賃貸故の制約があるので、我慢していることも多い。環境を変えて、もっと好きなものに囲まれることで仕事にも好循環が生まれる予感がするんです」

メディアはわくわくの集合地点。それを自らのくらしでも体現しようとするディレクターの姿がありました。

「やっぱり人のわくわくを繋げていく仕事なので、自分が『好き』と感じるパワーもどんどん鍛えていきたいと思います」

三宅 一成さんイメージ
KAZUSHIGE MIYAKE Everything Has A Story