Interview
#26

その〝瞬間〟をいかに魅せるか
ひらめきと創造をくり返す
ヘア&メイクアップアーティストの世界

奥平 正芳さんMASAYOSHI OKUDAIRA

ヘア&メイクアップアーティスト
ヘッドピースアーティスト

1980年、静岡県焼津市出身。祖父母、両親が美容師という家庭で育つ。大阪の美容学校で学び、ヘアサロンでの勤務経験を経てヘア&メイクアップアーティストとして独立。ファッション雑誌、ファッションショー、テレビCM、カタログ、アーティストのメーキャップなど多方面で活躍。クリエイティブなヘアメイクのみならず、ヘッドピースの制作も行っており、ワイヤーや竹、樹脂、紙などさまざまな素材を駆使した独創的なアイテムが話題に。
http://masayoshiokudaira.com/

アイディアの源泉はどこにあるのだろう? クリエイターたちの卓越した仕事を見るとき、まず湧き上がるのがそんな疑問。ヘア&メイクアップアーティストの奥平正芳さんは、ナチュラルなヘアメイクから、紙やワイヤーなどさまざまな素材を用いた存在感のあるヘッドピース制作まで、驚くべき振り幅のお仕事を手掛けています。仕事とプライベートを明確にわけず、日々のくらしからも自然と創作のヒントを得ているという、そのクリエイティビティの秘密を探りました。

「真似しちゃいけない」
という思い

「どんなところからアイディアが浮かぶの? などと、知り合いからもよく聞かれるんです。でも、自分でもよくわからないんですよね。僕、あまりものを知らなくて。音楽も詳しくないですし、映画もそんなに見ないですし、美術館もそんなに行かないし、趣味もないし。なんの面白みもない、普通の人間です(笑)」

と語る奥平さん。そんな淡々としたセリフからは想像できないほど、大胆で独創的なヘアメイクやヘッドピースを数々生み出しています。その活躍の領域は、雑誌やテレビCMまでさまざま。
「『真似しちゃいけない』っていう思いが、頭のどこかにあるんです。作る時に何かを参考にしたら、やっぱり同じようなものになっちゃうじゃないですか。基本的には自分の頭の中でイメージを膨らませていく感じですね」

日々くらしの中で触れるさまざまな情報が頭の中に降り積もり、「勝手に溜まっているストックからアイディアが出てきているのかもしれない」と分析しました。

奥平 正芳さんイメージ
奥平 正芳さんイメージ

専門学校時代に出会った
ヘアメイクの世界

そんな奥平さんが生まれ育ったのは、祖父母、両親は美容師で、親戚も「ほぼ美容師」という環境。

「今思うと特殊ですよね。それが普通だと思ってたんですけど」

自然な流れで美容師を目指し、大阪の専門学校に通うことになりましたが、美容師ではなくヘア&メイクアップアーティストになろうと決めたのは、その専門学校時代だったそう。

「出身が静岡県の焼津市なんですけど、田舎で育ったので、そもそもヘアメイクという職業自体を知リませんでした。でも学校の授業でその職業や、クリエイティブなヘアをたくさん見るようになって、面白そうだなと」
卒業後は東京のヘアサロンに就職。そこで、かつて有名コスメブランドのメーキャップチームで働いていた先輩からも時折教えを乞い、撮影にも連れて行ってもらうなどの経験を得ました。3年ほど働いて、アシスタント経験などもなくすぐに独立します。

「ナチュラルなヘアとメイクに仕上げる仕事と、大掛かりなヘッドピースを作って魅せる仕事との間に、自分はあまり違いを感じていなくて。その仕事のテーマがあって、それに対してアウトプットの仕方が違うというだけ。あくまでも人がいて成立するものなので、そのモデルさん、俳優さんが活きないと意味がないと思っています。それを模索しながら提案していきますね」

奥平 正芳さんイメージ
奥平 正芳さんイメージ

ヘッドピース作りは
独学で習得

独創的なヘッドピースは、紙に何度もペンキを吹きかけて艶を出したり、細い竹にワイヤーを巻き付けて籠のように編んだり、素材や作り方も実に多種多様。しかし、こうした技術は創作していく中で独学で習得していったと言います。

「図工というか、工作みたいな感覚です。理数系の大学にも行っていないですし……多分こうなるだろうな、っていう感覚。それがわりと当たるみたいです」

仕事場にはこれまでのヘッドピースがずらりと並び、壁一面にかけているほか、天井からもぶら下がっているのだとか。素材や工具が入っている大きな引き出しの中には、色違いや太さ違いのワイヤー、レザー、布、これまで作ったヘッドピースの端材など、ありとあらゆるものが収納されているそう。

「たぶん、なんでもあるかもしれない。おもちゃとかもありますよ。気になったら買っておいて、保管しておくんです。昔作ったアイテムの端材を使って、今の感性で全く新しいものを作るということもあります」

奥平 正芳さんイメージ
奥平 正芳さんイメージ

その「瞬間」を良く見せる、
ということ

ヘッドピースの素材の特性や、規模によって変動はありますが、多くの場合、制作時間は約3時間。長くかかる時でも3日程度とのこと。奥平さんの作品を見たことがあれば、数字だけ聞くととても早いように思えます。

「僕、あんまり一つのものを長く、こまごまと作るのは好きじゃないんです。美術作品を作っているわけではないので。あくまでもファッションの中の一アイテムとして、そのシーズン、アイテムを引き立たせたりするものという感覚が強いです」

ヘアメイクは人に施すものなので、それ「そのもの」が単体で残り続けていくものではありません。その瞬間、瞬間に息を吹き込むような仕事ぶりが伺えます。

「だから、ある種、気が楽なんじゃないですか。僕らの仕事は、朝来て、1時間、1時間半で求められている完成度に持っていく、というもの。ファッションデザイナーさんみたいに、一つのシーズンを発表するために長い期間向き合うわけではありません。そのかわり、特有の瞬発力みたいなものが必要だけど、僕の性格には向いているのかな」

また、2020年、惜しまれつつもこの世を去ったヘア&メイクアップアーティストの加茂克也さんには大きな影響を受けたそう。それは「どんなお仕事でも、加茂さんの手が入ることで断然『良く』見える」ということに魅力を感じるから。移りゆく時間の流れの中で人とファッションアイテムを輝かせることが求められる、ヘア&メイクアップアーティストならではの感性なのかもしれません。

奥平 正芳さんイメージ

誰かの憧れになるような
仕事を目指して

手芸店を見ていて素材に惹かれたり、木を見て葉の形に惹かれたりと、くらしの中からクリエイティブのインスピレーションを得ているという奥平さん。仕事のオン、オフを意識して区切ることはなく、それで「全然ストレスになってないです」と笑顔。

「意識の上では区切れないですよね。家族と過ごしている時に『あっ、これいいな』ってひらめくこともありますし。僕にとってオンとオフの差は、『やっていること』の差だけなんじゃないかな」

くらしとクリエイティブの仕事の世界が地続きに繋がっています。

「この仕事をやっていて楽しいな、と思うのは、反応がすぐにわかること。自分が本当にいいと思ってやったことに、すぐ反応が来る時が一番楽しくて、やりがいがありますね」

数多くのヘッドピースを作ってきたので、いつかそれらを一挙に集め、個展を開きたいという目標もあります。
「その時、その時で違うものをたくさん作ってきました。美術作品ではないから、一点だけで勝負はできない。でもそれらが一挙に並んだ時に迫力を感じてもらえるようなものをこれからも作れたらいいな、と思います。あと、僕らの世代が加茂克也さんに影響を受けているように、いつか自分の仕事が誰かにとっての憧れになれるような、そんな仕事を目指したいですね」

奥平 正芳さんイメージ
奥平 正芳さんイメージ
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KAZUSHIGE MIYAKE Everything Has A Story