Interview
#16

〝3つ星フレンチ シェフパティシエ〟
最高峰の舞台の華麗なる一皿
「おいしい」を通じて
幸せを生む未来を作りたい

安川 真揮さんMASAKI YASUKAWA

ガストロノミー "ジョエル・ロブション"
シェフパティシエ

1985年、新潟県でレストランを営む両親の元に生まれる。高校時代に洋菓子店を舞台にしたテレビドラマを見たことでパティシエに憧れ、エコール 辻 東京で製菓を学ぶ。卒業後、六本木の"ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション"に就職、その後、数々の有名ホテルや一つ星レストラン、フランス・パリの"ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション"などを経て、2019年より恵比寿のガストロノミー "ジョエル・ロブション" のシェフパティシエに。
https://www.robuchon.jp

15年連続ミシュランの3つ星を獲得し続けているフレンチの名店、ガストロノミー"ジョエル・ロブション"。その食事の締めくくりを担う、デザートの責任者がシェフパティシエの安川真揮さんです。パティシエに憧れたのは高校生の時。数々の名店で経験を積み、腕を磨きました。今、誰もが憧れる舞台で創造性を発揮する安川さんが考える、プロフェッショナルとしての仕事との向き合い方、デザートのおいしさの真髄とは?

悔しさの連続で
切り開いてきた道

「最初は、この仕事向いてないかも、と思っていました。毎日怒られて、何故怒られているのかもよくわからない感じ。そこからだんだん先輩やシェフに信頼してもらって、やっていけるかな、と思うまでに1年くらいかかりました」

駆け出しの頃を振り返り、そう教えてくれた安川さん。実家はレストランを営んでいたそうですが、高校生の時に洋菓子店を舞台にしたドラマを観て、お菓子を通して人を幸せにできるという内容に惹かれ、パティシエに憧れるように。そして、製菓学校の老舗・エコール 辻 東京に入学。弟も料理の道に進み、現在フランスのレストランで働いているという料理一家です。

新人時代は苦労したそうですが、それでも安川さんがパティシエを続けてきたのは、「お菓子が好き」という強い気持ちがあったから。

「すぐ諦めても、何の楽しさもわからないまま終わってしまう。それは嫌だったんです。それに、人から認められないのはやっぱり悔しい。その悔しさの連続でここまできたような気がします」

安川 真揮さんイメージ

シンプルな
おいしさこそが大事

初めて就職した〝ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション〟で3年半ほど働き、有名ホテルへ。しかし、ホテルよりも、お客様の喜んでいる顔がより直に見えるレストランでの仕事の方にやりがいを感じ、その後数々のレストランで経験を積みます。自身も含めてスタッフが3人のレストランにいた時には、1年で1つ星を取るという快挙を成し遂げました。

また、パリのサン ジェルマン デ プレ地区にある〝ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション〟でも働き、2019年より恵比寿のガストロノミー〝ジョエル・ロブション〟のシェフパティシエに就任します。結果的に、長いキャリアの中でロブション氏のお店で働いた時間が大半を占めるように。自分では意識してないまでも、人から「安川さんのデセール(デザート)はロブションらしい」と言われるそう。

「ロブションはデザートが〝作りやすい〟お店だと思います。他のお店だと、奇をてらった組み合わせや意外性のほうが重要視されることもあるんですが、ここではストレートに、『おいしい』ということが何よりも大事」

安川さんがデザートを作る上で大切にしているのは、複雑な構成にしないこと。例えば、イチゴを使うのであれば、果物そのものの味わいを感じられ、見た目にもイチゴの色合いを楽しめるよう仕上げます。デザートの「おいしさ」を織りなすのは、甘味と酸味のバランス、みずみずしさ、温度。

「デザートはコース料理の締めくくりを担い、その日の食事全体の印象を左右してしまう大切な存在です。3つ星レストランらしい洗練された雰囲気、華やかさを感じていただけるよう、細部までこだわります」

安川 真揮さんイメージ
安川 真揮さんイメージ

最高峰のレストランが
体現するスタイル

シンプルに「おいしい」と思ってもらえることが大事──その考え方に出会ったのはパリで働いていた時でした。

「『自由でいいんだな』と、パリでは強く感じました。伝統を大切にしながらも柔軟な発想が大切にされていて、高級食材が特別大事なわけではない。当時僕が出会って、今でも使っている食材にライスクリスピーがあります。身近なお菓子にも使われているので高級店の印象はないかもしれませんが、食感もよく、チョコをまぶしたりといろんな使い方ができます」 おいしさを求めるのに、こんなものを使ってはいけない、という不文律はない。それはデザートだけでなく、料理も同じ。日本から取り寄せた出汁を料理人に見せられて「これ説明が日本語で書いてあるんだけど何て読むの」と聞かれることもあったとか。

さまざまな国の食文化の良いところを取り入れておいしさを追求する、それがロブションのスタイルでした。

「とはいえ守らなければいけないクオリティーがあり、その重圧は感じます。恵比寿のロブションはもう15年連続で3つ星を取っている店です。お客様が憧れてくださる卓越した世界観を表現できるように、日々努力しなければならないな、と」

安川 真揮さんイメージ

自分の「食べたい」が
原動力

現在、シェフパティシエとして10人ほどのチームを率い、ロブション氏が作り上げた芸術的な世界観を体現しています。仕事で常に新しいものを求められる中で、最近は余暇の大切さに気づいたそう。

「駆け出しの頃は仕事ばかりしていたのですが、今はプライベートの時間もしっかり確保するようにしています。そしたら、人生が長くなったように感じるんです。よく、年齢を重ねると『一年はあっという間』と言う方がいますけど、僕は逆。今月はこの人にも、あの人にも会った、こんなこともしたな......あれ、それでまだ1ヶ月しか経ってないんだ、みたいな(笑)」
プライベートが充実すると人生が充実し、結果的に仕事にも好影響を及ぼすことを実感しています。

「日常では、自分がパティシエであるということを極力忘れるようにしてるんです。レストランやお菓子屋さんに食べに行っても、料理人目線ではなく1人のお客さんとして、そのお店本来の良さを味わうようにしています」

そこで得たひらめきをお菓子作りに生かす時には、今、この季節においしい食材を自分はこんなふうに「食べたい」、と味・イメージを膨らませていくそう。自分の感覚も進化していくので、今年の「食べたい」は今年限りです。

安川 真揮さんイメージ
安川 真揮さんイメージ
安川 真揮さんイメージ

未来にも「おいしい」を
残すために

「毎日の中で何よりワクワクするのは、新しいメニューを試作している時ですね。料理の世界は天才たちが注目される場所でもありますが、僕はどちらかというと職人気質で堅実にやってきたと思います」

自分のやるべきことと地道に向き合い、確かな技術と美学を身につけてきた安川さん。どんなお店にいても、「おいしい」という体験をお客様に届けるために尽力してきました。

「現在、フードロスの削減に取り組んでいます。僕らが生きているこの時代で地球は終わりじゃないですし、未来でも、住みやすく、おいしいものを食べて人々が幸せだと感じられるような世界であって欲しい」
おいしい、という体験を通じて人を幸せにすること。その思いが、安川さんの大きな原動力です。先の目標ですが、料理人の弟と共にレストランを開く未来を描いていると言います。コロナ禍など予想外のことに見舞われる現代社会で、具体的な業態はまだ見えていませんが、人に喜んでもらえるようなお店にしたい、というイメージは変わりません。

「人に喜んでもらえたら、やっぱり嬉しいです。デザートを作ってもそうですし、私生活でもそう。その時々の情勢にあった選択をしながら、おいしい、と人に喜んでもらえる体験をこれからも生み出し続けていきたい、と思っています」

安川 真揮さんイメージ
安川 真揮さんイメージ
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