Interview
#30

SDGs達成への思いがくらしの喜びへ
自分にできることから一歩を
『FRaU』編集長が伝えたいこと

関 龍彦さんTATSUHIKO SEKI

『FRaU』 編集長 兼 プロデューサー

1964年生まれ、神奈川県出身。1987年株式会社講談社入社。『ViVi』『FRaU』の編集者を経て、1997年、日本初のビューティ専門誌『VOCE』の創刊に尽力、同誌編集長を務める。2010年より4年間、『FRaU』編集長となり2017年より現職。2018年12月、国内女性誌として初めて「一冊丸ごとSDGs特集号」を刊行し話題に。以降、SDGs特集号はテーマを変えて号を重ね、フードロス、ジェンダー、働き方改革、寄付や投資、旅など、さまざまな切り口から発信を続けている。
https://gendai.ismedia.jp/frau

2018年、日本の女性誌で初めて一冊丸ごと「SDGs特集」を発表した『FRaU(フラウ)』。今でこそよく聞く言葉となったSDGsですが、編集長の関さんは、当時社内で「関がよくわからないアルファベットを唱え始めた」と言われたほどの認知度だった、と振り返ります。今、現代人のライフスタイルは気候危機などの社会課題と無縁ではいられません。SDGsというテーマで発信し続けてきた関さんが語る、自分にとっても地球にとっても心地よいくらしのアイディアとは。

2018年、SDGsの認知度は
14・8%だった

女性誌の編集に30年以上携わってきた関さん。時代の流れの中で、ファッション、ビューティというテーマに対する消費者の意識の変化を感じています。

「社会や地球に負荷がかかる服を着たり化粧品を使って本当に心地よいと言えるのか、読者はそんな気づきを得ています。生産背景など、ものにまつわるストーリーが昔よりも重要視されるようになりました。一方でファッションやビューティの本質はくらしをわくわくさせてくれるもの。そのわくわくをお届けする、という点で僕がするべき仕事が大きく変わったとは思いません」

SDGsというテーマを取り上げると決めたのは2018年のこと。国連でSDGsが採択されたのは2015年ですが、当時、日本ではまだSDGsの認知度は高くありませんでした。

「ある調査では、その時の日本人のSDGsの認知率は14・8%。特に、『FRaU』のメインターゲットである30代、40代の女性の認知度は平均よりも低かったんです。消費活動の中心である女性たちの認知度が低いと、日本のSDGsが遅れたままになってしまう。何かできないかと考えた時に、ずっと一つのテーマを深掘りしてきた『FRaU』のスタイルだったら、一冊全部を使ってSDGs特集ができると思いました」

関 龍彦さんイメージ

メディアだからこそ
できること

しかし、まずは企画に賛同して雑誌に出稿してくれるパートナー企業の理解を得るところからのスタートでした。

「企業のご担当者の方にお声かけして、SDGs号の説明をする会を2回ほど設けてご理解を得ました。そこで、自社のSDGs施策の方向性に悩んでいるという方々が意見交換をしながら、どんどん繋がっていく姿を見て希望を感じましたね」

2019年1月号として刊行された「一冊丸ごとSDGs特集」は、女性誌が日本で初めてSDGsを専門的に取り扱ったことで大きな反響を呼びます。
現在、『FRaU』のSDGs特集号は4年で12冊を数えるまでに。官公庁や地方の行政機関など、従来の女性誌がなかなかつきあうことのなかった組織とのパートナーシップも増えました。

「SDGsの目標の17番は『パートナーシップで目標を達成しよう』ですが、まさに、人と人、組織と組織をつなぐことはメディアだから担える大きな役割。『FRaU』を作ることで、SDGsに取り組みたいと真剣に考えている人たちを繋げ、その輪を広げていくことができるのはとても嬉しいことです」

関 龍彦さんイメージ
関 龍彦さんイメージ
関 龍彦さんイメージ

みんなで取り組むという
姿勢が不可欠

そもそもSDGs(持続可能な開発目標)とは17のゴールと169のターゲットからなり、より良い世界を目指すための国際目標。「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「ジェンダー平等を実現しよう」「つくる責任 つかう責任」など、数々の社会課題を網羅しているため、雑誌で取り扱うジャンルも幅広くなります。

専門的で難しいと感じられてしまうテーマを、わかりやすく親しみやすい企画で発信するのが雑誌としての腕の見せ所。ある号では、多くの人を議論に巻き込むきっかけづくりを目指しました。

「例えば、2020年8月号のテーマは『ジェンダーとダイバーシティ』でしたが、かなり慎重に編集を進めました。女性誌ですから、フェミニズムを取り上げれば『女性だけの問題』と受け取られて終わってしまう可能性もあります。なので、性別も年齢もさまざまな人に登場していただいて100を超える意見を集め、できるだけ多くの視点を紹介するようにしました」

また、現在は地方の新聞と組み、高校生に『FRaU』を無料配布してディスカッションをするという企画も計画中だそう。

「大人が一方的に『教える』という感覚では意味がない。高校生から僕らが教わることもあるわけです。みんなで取り組むという姿勢がSDGs達成には不可欠だと思っています」

関 龍彦さんイメージ
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大切なのは、
楽しいという感覚

日本においてSDGsの発信を牽引してきた関さんには、日常の中で取り組んでいるアクションはあるのでしょうか。

「僕がよくお伝えしているのは、個人のレベルでできること、プロフェッショナルとしてできることを分けて考えるということ。僕も、編集者としての自分、個人としての自分の両方の領域で、できることをやっていきたい」

その関さんの個人的な取り組みの一つが、コンポストを使って生ごみをリサイクルすること。

「最初の一歩さえ踏み出せれば、どんどん次に繋がっていきます。コンポストを使い始めた当初は、難しい、面倒、といった感情がなかったわけではありません。でも、冬の寒い日にコンポストがぽかぽか温かいと『微生物が頑張っているんだな』と愛着が湧きますし、『堆肥になったら庭に撒いてハーブを育てよう』とできることが増え、楽しくなってくるんです」

燃えるゴミの日にゴミ袋が軽くなっているのを実感するのが嬉しいそう。

「環境にいいことをしている、という意識から湧く喜び以前に、純粋に『軽い』のが喜びなんです。やっぱり、ライフスタイルに根付かないと続かないですから、楽しい、という感覚は大事ですよね」

関 龍彦さんイメージ

未来につながる
アクションの発信へ

SDGs特集第3弾の『WORK』というテーマでは、リモートワークや副業、2拠点生活などを数多く紹介。人生を豊かにしてくれる働き方に影響を受けて、関さんも熱海に拠点を持つようになったそうです。

「『アジト』と呼んでいます(笑)。東京で忙しい日々を送っていても、『あの部屋がある』と思うと不思議な解放感があるんです。今、なかなか旅行にも行きづらい状況ですが、鍵一つで非日常を味わえますし、ワーケーション気分で仕事も捗ります」

熱海の部屋には掃除機も洗濯機も冷蔵庫もありません。

「掃除はほうきで、洗濯物は東京の家に持ち帰れば済みますし、冷蔵庫もクーラーボックスで事足ります。東京にいる間、熱海の誰もいない部屋で冷蔵庫が稼動しているのも嫌ですしね。これからもっと、熱海で過ごすことが自分のライフスタイルに馴染んでいくようにしたいです」

くらしの中で、楽しみながらSDGsに関連するさまざまな行動を実践する関さん。お話を伺って、自分には何ができるだろうかと考えたくなりますが、まさに、6月29日に刊行される『FRaU』8月号ではSDGs達成のための具体的なアクションプランが特集になるとのこと。

「問題を知って終わりでなく、その先の行動を誘う企画を検討中です。もともと、『もったいない』という感性にも代表される通り、日本人にはSDGs達成において世界をリードできる素質があるはず。そこを刺激しながら、少しでも未来につながる行動の喚起に繋がれば嬉しいですね」

関 龍彦さんイメージ
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KAZUSHIGE MIYAKE Everything Has A Story